犬飼くんが見てる
授業が終わって教科書の片付けをしていた、そのとき。


「………ん?」


視線を感じて、私はふっと顔をあげた。

その瞬間、前の席の犬飼くんとばっちり目が合ったので、ぎょっとする。


「ねえ………夏木さん」


びっくりして固まっていると、犬飼くんがふいに口を開いた。


「………えっ? な、なに、犬飼くん……」

「今さ、最後の夢の話、聞いてた?」


重たい前髪の下にある、ぎょろりとした目玉があたしを見つめている。


「え? あ、うん」


あたしがこくりと頷くと、犬飼くんが、にんまりと笑った。


「昨日さあ……俺の夢に、夏木さん出てきたんだ」

「…………………は?」


あたしは絵に描いたようにぽかーんとした。


こいつ、急に何言い出した?


いや、知ってるよ?

知ってるんだよ、犬飼くんが変人だってことは。


なんか、言葉にできないけど、とにかく変なんだよ。


別に、誰とも口きかない無愛想なやつとか、そういうわけじゃない。

むしろ、誰とでも構えずに喋る感じ。


ただ、特定の仲良いやつとかいなくて。

移動教室とかのときも、一人でふらふら歩いてる。

なんか斜め上とか見ながら。


お昼も一人でお弁当たべながら、ときどきくすっと笑ったりしてる。

で、「今おもしろいこと思いついたんだ」とか急に振り向いて報告してきたりする。


みんな人がいいから、犬飼くんに喋りかけられたら普通に応対するけど。

だからといって自分から話しかけたりはしない。


なんていうか、不思議だけど害はない妖怪がクラスにいる、って感じかな……。

みんな、すこし遠巻きにして犬飼くんの様子をうかがってる感じだ。


でも、犬飼くんはそんなの気にしてない感じ。

つまり、変なやつ。


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