命短き、花初恋。
僕達は屋上に来た。








「ここ。綺麗でしょ?海が見えて。」








「そうだね…」








「私ね。会社の屋上も好きだったんです。特








別景色が綺麗だったり、大きかった訳じゃ








なかったんですけど、なぜだか落ちついて…








でも、ここは最高ですよ。」








「うん…」








「ここの場所…教えたの、島津さんですか?」








「…そうだよ。」








「だと思いました。じゃあ、私の事も聞きま








したよね。」








「脳、腫瘍…」








「はい。もう、助かりません。」








「…相談してくれれば…」








すると、桜は声を大きくする。








「無理ですよっ!そんなの…そんなに私は強








くないっ!言える、訳がないじゃないです








か…」








彼女は涙を零す。








桜は言葉を続けた。








「私、脳腫瘍って知った時、『ああ。舞音く








んもこんな気持ちだったんだろうか。』っ








て思いました。でも毎日は変わらない。起








きる時間、電車に乗る時間、電車によく乗








り合わせる人、好きな食べ物、屋上が好き








なこと…何も、変わらなかった…でも、その








変わらない毎日が無くなってしまうのが…怖








かった…」








「…気づいてあげられなくって、ごめんね…」








「違うよ。私は気付かれるのが怖かったの…」








「…本当に、死んでしまうの?」








「うん。」








桜は涙を零す。








僕は、車椅子に乗った桜を抱き締める。








前に抱きしめた時よりも、細くなってしま








った体。








力を入れたら、折れてしまいそうだった。








「…私、最期に舞音くんに会えて…本当によか








った…」








「…僕も。」
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