始まり
森の奥深く。
きっと誰にも見つかる事のない、小さな墓の前に佇む二人。
一人がもう一人に問いかける。

「…俺は母さんに愛されてたのかな?」

「ん?」

「母さんは、俺よりもあのクズを選んだんだ。だから…。」

「それはお前が決める事だ。」

訪ねた方彼は、目を見開き、次の言葉を待つ。

「[愛されていた]かは、愛を注がれるものにしかわからない。[愛した]ならば、愛を注ぐものにしかわからない。だから私には答えられない。」

「注がれたもの…」

「お前はどう思うんだ?」

「愛されてた…かな?自信がないな…」

「そうか。」

訪ねた彼はそっと座り込む。
墓を見つめながら、また呟く。

「あのクズは…どうしてあんな風だったんだろう?」

「あの人間のことか…あの人間が一番大切にしていたのは自分だった。それが答えだろ。おそらくな。」

「少しでも母さんを大切にしてくれれば良かったのに…。」

「…これは憶測だが、あの人間は私を刺した時、居場所がないと言っていた。いきていけないと。お前と母親を見ていて自分に居場所がないように感じていたんじゃないのか?」

「俺と母さんを見て?」

「自分だけが違う生き物だから。暴力を振るっていたのも、自分が上の存在として見せる為。支配下に置いておけば、居場所がなくなる事はないと考えた。」

「あのクズ…居場所を守ってた?」

「憶測だ。真相はわからない。」

答えた彼は訪ねた彼をじっと見つめた。
選択の時。
訪ねた彼は立ち上がり、答えた彼を真っ直ぐに見つめ、選択する。

「連れてってくれ…俺は自分の居場所が欲しい。」


「…わかった。私と共に見つけよう。私達の居場所とやらをな。」

二人は旅立つ。
後ろの墓を振り返らず、足を動かしていった。
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