ヨル「じゃあ、お代の言葉は…」

女の顔に緊張がはしる。
自分は何を失うのだろう…もしも、魂・命など言われたら断ろうと考えた。
確かに魅力的な言葉だが、それで自分を失っては意味が無い。

ヨル「『満足』」

女「満足?」

ヨル「満たされると言う意味。」

女は少し身体の力が抜ける。
命を失ってしまうかもと思っていたのは先程。
だが、『満足』を失う想像が出来ない。


ヨル「言葉を失ったからって、その言葉が読めなくなったり、使えなくなったりするわけじゃないぞ。」

ツキ「その言葉が指すモノ、その言葉が意味するモノがお代となるんです。」

女「そうなんですか…どうなるんだろ…」

ヨル「どうなるかはお前次第だ。だけどな、失う事は悪いことだけではない。」

女「どう言う意味ですか?」

ヨル「例えば、仕事で満足なんてしたら次が見込めないだろ?」

女「そうですね…もっと向上心がないと…」

ヨル「彼氏とやらも、今の関係で満足してて良いのか?もっと色々してあげたいんじゃないのか?」

女「はい…」

ヨル「な?満足するって良いことだけじゃないだろ?」

確かに満足は良いことだけじゃない。
なら…でも…

ヨル「まぁ、ゆっくり考えれば良い。ツキ、お菓子。」

ツキ「はいはい。」

ツキが戸棚からお菓子を取り出す。
小さな袋に入った金平糖。
ツキは二つの小皿にあける。

ツキ「召し上がってください。」

女「ありがとうございます…」

女は一粒摘むと口に含む。
ゆっくりとかしながら、口の中で転がしていくと、甘みが広がっていく。
とても幸せな気分にしてくれるお菓子だ。

「何で迷ってるんだ?」

「え?」

「何故、選ばない?」

「そりゃ…何があるかわからないからですよ。」

「ふーん。」
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