兎は寂しくても死なない
男女関係なく、一人の人をずっと愛し続けることができる人なんて果たしてこの世界にいるのだろうか。テレビで見る感動的な恋愛話だって本当に一度も他の異性に目移りしなかったのか疑問だ。もしも本当に生涯を共にすると決めたパートナーだけを愛し続けられる人がいるとするのなら、それは間違いなく特別で、奇跡の様な人だとさえ思う。最初はどんなに好きで大切だと感じていても人は簡単に気持ちが変わるし現状に満足し退屈になり油断して裏切る。私だってそうだったし周りだってそうだったからそんな現実に今更どうこう言う気もないが、何故だか木宮真緒は違うような気がした。何故だ?と聞かれれば直感というものに近い非常に不確かで曖昧で適当な私個人の思い込みで、上手く答えられない。でも私は木宮真緒に夢を見てしまった。
「ねぇまーくん」
静かな部屋に私の声だけが小さく響いた。少し汗ばんだお互いの体を寄せ合うように背中から私を抱き締めてる木宮真緒は私の声に「ん?」とだけ返事をこぼしその顔を首にうめた。髪の毛がくすぐったい。汗臭くはないだろうか。彼は今何を考えているんだろう?わからない。知りたい。でも、知りたくない。グルグル目が回りそうなくらい甘ったるい。
「まーくん好きな人いるでしょ」
「好きなやつなんかいないよ」
「その子と付き合わないの?」
「おい、俺の話きけよ」
「きーてるのはこっちだよ」
「もう黙って、類」
名前を呼ばれて口づけを一つ。「さっき沢山したのにまだするの?」なんて不満げな声をだしてみれば「まだするよ」なんて少し意地悪く笑う彼との時間が素直に心地よかった。確かにこれはモテるかもしれないなぁなんて呑気に考えている反面、木宮真緒にはやっぱり好きな女の子がいることがなんとなく確信に変わった気がした。