兎は寂しくても死なない
「まって、まーくん、シャワーくらい入らせてよ」「あ?別に平気だよお前いい匂いするし」「そーゆう問題じゃないんだけど?」そんな会話だけ交わして木宮と私の身体は静かにベッドへと沈んだ。
今日の木宮真緒はなんだか性急で、余裕がないくらい必死に私を求めてくる。呼吸もできないほどの荒々しい舌の動きに口の端からどちらのかわからなくなった唾液が流れ出る。身体を揺らすこの甘い振動に下腹部がキュンとする。ああ、なんて浅ましいんだろうか。一時の麻薬のようなこの行為に愛など無いとわかっているのに、人に求められるのはどうしてこんなに心地が良いんだろう。このまま呼吸をするのも忘れて、誰かに求められたまま、死んでしまえたら、なんて。ーー私の歪んだ思考を邪魔するかのように、木宮真緒の携帯が鳴り響いた。
「携帯、うるさ、」
しばらく経っても鳴り止まない携帯の音に痺れを切らして木宮真緒がチラリと外を見やる。その行動と現実に戻ったかのような声色に酷く覚めてしまいそうになった。やめて、やめて、やめて、私を見て、嘘でもいいのだ、今だけでいいのだ、私を必要だと言って、私を醜いほどに求めて。この関係は異常なのだと、私は愛されていないのだと、私は壊れているのだと、まだ僅かに残っているマトモな自分が脳を正常に戻そうと抗っているだなんて今だけは忘れさせて!
「まーくん、余所見しちゃやだ」
木宮真緒の首を自分に向けさせその唇を奪い取る。木宮の目が現実から此方側に堕ちたのがわかって安堵したのと同時に、また甘い刺激が私達を酷く揺さぶった。木宮真緒には好きな女の子がいる。私は彼に愛されることはないだろう。だが、それでいい、それでもいいから、
「類、俺もう、」
「いいよ..まーく、ん、一緒に、ね?」
今だけは私を見ていてよ。