Love Birthday‥~約束~
何も言えなくなった俺に、緒方科長が一枚のカルテを差し出した。
「おまえに担当してもらいたい患者がいるんだ」
「え? 俺にですか……?」
渡されたカルテは、俺と同じ脊髄を損傷している10歳の男の子のものだった。
脊髄レベルの患者さんを診るのは俺には無理。
そんなことは緒方科長が一番わかってるはずなのに……。
「先週からリハビリを開始するはずだったんだが、声をかけてもうんともすんとも言わないんだ。
完全に周りに壁をつくってる。
おまえなら、どうする?」
俺だったら……?
カルテから目を離さない俺に、緒方科長が言った。
「その子が今救いを求めてるのは、体のリハビリじゃない。
ここ、だよな?」
緒方科長が俺の胸を指先で突いた。
固く閉ざしてしまった小さな心の扉――。
俺も同じだった。
現実を受け入れたくなくて、何度も心を閉ざしそうになった。
全てを諦めるしかないって
全ての可能性に目を伏せた。
あの時、俺を救ってくれたのは親父や緒方科長。
中嶋先生や理学療法士のみんな。
俺なんかに同じことができるのか……?
「じゃ、頼んだからな」
俺の不安を余所に、緒方科長はスタッフルームに入って行った。