Love Birthday‥~約束~


何も言えなくなった俺に、緒方科長が一枚のカルテを差し出した。


「おまえに担当してもらいたい患者がいるんだ」

「え? 俺にですか……?」


渡されたカルテは、俺と同じ脊髄を損傷している10歳の男の子のものだった。


脊髄レベルの患者さんを診るのは俺には無理。

そんなことは緒方科長が一番わかってるはずなのに……。



「先週からリハビリを開始するはずだったんだが、声をかけてもうんともすんとも言わないんだ。
完全に周りに壁をつくってる。
おまえなら、どうする?」



俺だったら……?


カルテから目を離さない俺に、緒方科長が言った。


「その子が今救いを求めてるのは、体のリハビリじゃない。
ここ、だよな?」


緒方科長が俺の胸を指先で突いた。



固く閉ざしてしまった小さな心の扉――。


俺も同じだった。

現実を受け入れたくなくて、何度も心を閉ざしそうになった。

全てを諦めるしかないって

全ての可能性に目を伏せた。


あの時、俺を救ってくれたのは親父や緒方科長。

中嶋先生や理学療法士のみんな。



俺なんかに同じことができるのか……?



「じゃ、頼んだからな」


俺の不安を余所に、緒方科長はスタッフルームに入って行った。




< 187 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop