難あり編集者と極上に甘い結末
───だけど、そんなことを思っていたのは私だけだった。
彼と付き合い始めて一年半が経った頃、私の家で、彼の友人や私の友人を数人呼んで自宅でご飯をした時のこと。
みんなで鍋をつつきながら楽しく話をしていた私達。お酒が入っていたこともあり、夜中の十二時を過ぎるとみんな絨毯やフローリングの上で寝てしまっていた。
ふと、夜中の二時ごろに目を覚ました私の耳に、突然リップ音のような音が入ってきた。電気の消えた暗いリビングを見渡すと、部屋の隅でキスを交わしているようなシルエットが見えた。
お酒も入っているしこういうこともあるか、なんて、呑気に思っていた。まさか、彼が私以外の女の子とキスをしているなんて考えもしなかった。
だけど、再び静かに目を閉じた私の耳には、聞き慣れた声と、信じられない言葉が入り込んできた。
「ねぇ、私と付き合ってくださいよ」
「いいよ」
「えー? 嘘だ、杏子(あんず)と付き合ってるじゃないですか」
「ああ、うん。でも、君の方がタイプだ。彼女は酔った勢いで告白してきてるから、向こうも将来を見据えて付き合ってるわけじゃないと思う。俺も、仕事のこともあるし断れなくて付き合ってるだけだから」
この二人の会話を聞いた私は、声を出すことも、動くこともできなかった。
出来ることなら、何言ってるの、と二人の間に入って怒ってやりたかった。信用していた友人と、将来を真剣に考えた大好きな人。二人に同時に裏切られたような気がして、私は気が気じゃなかった。
だけど、弱く、臆病な私にそんなことは言えなかった。