難あり編集者と極上に甘い結末
その後、私は彼に何を言い出すことも、行動を起こすことも出来なかった。
変わらず私は彼のことを好きなままだったし、私の前で、彼は平然と愛を囁き、私を求めた。彼といる時間は、ただ純粋に幸せだった。
数週間もすれば私は、ああ、あれは幻聴と幻覚でも見ていたのではないか。なんて思い始めていた。怒りも、不安も、悲しみも徐々に薄れていった。
しかし。姿形消していたその感情たちは、突然、とても大きな棘と勢いを増して私の中へと帰ってきた。
「沼川さん、もう既にご存知と思いますが、来週から新しい担当がつきますので、また挨拶に伺わせますね」
突然の、担当者変更の知らせ。
私は、彼から何も聞かされていなかった。聞いたのは、彼の勤める出版社の編集長から。
詳しく話を聞くと、彼は、担当者が変わることを私には話していると編集長に伝えていたということ。ここ東京から京都の部署に転勤になったということ。それから、結婚をする事になったということ。
私は、何も知らなかった。
慌てて彼に連絡を取ろうとしたけれど、彼の連絡先は全て変わっていた。
気がつけば、私は、彼に捨てられていたのだ。