難あり編集者と極上に甘い結末
彼に捨てられた五年前から今日まで、彼に会うことはもちろん、彼からの連絡も無い。私達の縁は、もう本当に切れてしまったのだ。
未だにその傷に蓋ができない私の新たな担当編集者。それが男性になってしまったことに私は複雑な感情を抱いていた。
もちろん、あの頃のように、仕事のパートナーに恋愛感情を抱くなんて事は絶対にない。いや、そんな事はあってはいけない。ただ、異性と共に時間を過ごすのが怖くて、あの頃を思い出してしまうのが嫌なのだ。
「よりにもよって岩崎さんとは……」
知代さんがため息まじりに呟く。
「え? 何か問題のある人なんですか? その、岩崎さんって人」
「いや、問題というか何というか……悪い人ではないんですけど、ちょっと読めない人で。まぁ、34歳なのに良い顔だし、仕事は私よりもできるので安心してください」
「そうなんですね……あ。そういえば、岩崎さん、この間突然挨拶に来て……」
「えっ⁉︎ それって、まさか、ここにですか⁉︎」
丸く目を見開いて驚く知代さん。私はこくりと一度頷いた。
「うわ、だからあの人私に住所聞いて来たのね……」
「え?」
「この間、岩崎さんが〝挨拶行くんで沼川さん家の住所教えてください〟って言ってきたんです。私は〝担当変わったばかりだし家まで挨拶に行く必要はないから、沼川さんにこの辺りのカフェとかまで出て来てもらったらどうです?〟って言って断ったんですけど……結局自分で調べたんだと思います」
「そういう事だったんですね」
知代さんは、また申し訳なさそうに「すみません」と呟く。
「まあ、でも、大丈夫ですよ。あんなことにはならないでしょうし、うまくやります」
決して彼女が悪いわけではないのに、責任を感じているのか眉尻が下がりっぱなしの知代さん。私は、そんな知代さんにそう言って笑ってみせた。