難あり編集者と極上に甘い結末
二度も、あんな失敗をするものか。あんな思いは、もう二度としたくない。
正直、最初、担当が男の人になったことを知った時は不安も不満もあった。だけど、仕事は仕事だ。決まったことを今更言ったって仕方がない。私は、読者の方のために良い作品を創り出すだけだ。
───そう、思っていたけれど。
「こんにちは」
「えっ、あの、今日打ち合わせでした……?」
翌朝、部屋中に鳴り響いたインターホンの音により目を覚ました私は、身体を起こし、ドアを開ける。すると、そこには岩崎さんが立っていたのだ。
「ああ、まあ、そんなところです。あがってもいい?」
「え、あ、はい……って、え⁉︎」
私の返事を聞くとほぼ同時に、部屋へと上がり込んだ岩崎さん。私は、そんな彼の背中を見て唖然とした。
彼が姿を消したリビングへと入ると、すでにソファーに腰をかけていた岩崎さんがこちらを見て口を開いた。
「そういえば、君、如月杏子(きさらぎあんず)って名前なんだね」
「はい……そうですけど」
「初めて名前見た時、小説の登場人物かと思うくらい綺麗な名前だと思ったんだけど、どうしてペンネームは〝沼川千草〟なの? どちらかというと本名と違って地味なペンネームだよね」