難あり編集者と極上に甘い結末

丸くした瞳でこちらを見たまま、私の返事を待っている岩崎さん。そんな彼の視線に耐えられず、視線を床へと移動させた私はゆっくり口を開いた。

「それ、よく言われます。このペンネームにしたことにこれといった理由はないですけど……似合わないじゃないですか。私に“如月杏子”なんて名前」

 本当に、私が“沼川千草”というペンネームに決めた理由はない。ただ、しいて言うなら、この名前に自分は相応しくないと思っていたこと。地味な名前に憧れていたこと、くらいだろうか。

「そう? 似合わないなんて、俺はそんなこと思わないけどね。……あ、そう言えば。君の作品、読ませてもらったんだけど」

「え?」

 突然、カバンの中を探りだした彼から放たれた言葉。私は、少しだけ緊張して唾を飲み込んだ。

「個人的には、好きな作風だった」

「あ……ありがとうございます」

 カバンの中からゲラのようなA4の用紙束を取り出して言った岩崎さんの言葉にほっとした私は、小さく安堵の息を漏らした。が、その安心もつかの間。

「ただ、スターズ出版の人間として……更に担当編集者として言わせてもらうなら、君には決定的に足りない部分がひとつある。それを改善できないまま執筆を続けていくつもりなら、将来的にうちでは出せなくなると思ったほうがいい」

「足りない部分……?」

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