難あり編集者と極上に甘い結末
「これでいい?って聞かれても……」
私には、分からなかった。
確かに、彼の言う通り、私が綴った〝気がつけば恋に落ちてしまっていた〟というフレーズは、恋愛小説を書く時、恋愛を語る上での決まり文句のようになっている。私も、一読者として恋愛小説を読むとき、〝恋に落ちていた〟というこの言葉は何度目にしたことがあっただろうか。
私は、恋をする瞬間、恋が始まる瞬間というのは、こういうものだと思ってやってきた。実際にそうだったのかと聞かれると分からなくなるが、それでも、これが正しい恋愛論だと信じてきた。だけど。
「やっぱり君は、まだ恋愛を分かってない。分かっていないのに、そこら辺に転がってる決まり文句ばかり並べてるからダメなんだ」
「なっ……」
何言ってんのよ、と言い返してやろうと思った。だけど、彼の言うことは一つも間違っておらず、私は言いかけた言葉を飲み込んだ。
言い返す言葉なんて見つかるはずもなく、ただ黙り込んでいると、沈黙を先に破ったのは彼の方だった。
「俺に、良い案がある」
「え?」
丸く目を見開く。そんな私の視界に映り込む岩崎さんは、いつもと変わらない、平静とした様子で私の方を見た。
「俺に、恋をしてみたらいい」