難あり編集者と極上に甘い結末
確かに知代さんの言う通り仕事はできそうだが、突然理解不能なことを言い出す。そんな彼が何を考えているのか、私には全く分からない。
「そう? 俺は、別におかしなことだとは思わないな。俺が君の担当になって、君の作品を読んで、君にはまだまだ伸びしろがあるなと感じた。伸びしろのある君の作品をより良くする為に、俺は沼川さんに恋愛を知ってもらう必要があると思ったから、そう提案したんだ」
まだ何かある? 俺は間違っていないだろ? と言わんばかりの表情で私の返答を待っている岩崎さん。きっと、これ以上私になんの異論もさせないつもりなのだろう。
「つまり、ビジネスだと」
私の言葉に、彼は頷きもせず、首を横にも振らなかった。ただ、少しだけ口角を上げて笑う彼の返事はきっと〝イエス〟だ。
ああ、そうか。そういうことか。彼はこうやって、自分の担当する作家さんを伸ばしてきたのか。
「馬鹿馬鹿しい」
私は、鼻で笑ってやった。
彼の言うことは、確かに的確だ。だけど、私にだってプライドってものがあるのだ。いくら自分の才能を、作品を伸ばしたいからと言って、自分の心まで売るものか。