難あり編集者と極上に甘い結末
予想外な速さで決めることのできたアルバイト。私は、少しだけ軽い足取りで数分前に歩いてきた道のりをまた歩き始めた。
見慣れた景色を眺めながら歩く。快晴な空を見上げ、私は今書き始めている小説の続きを考え始めた。
昨日、岩崎さんに「俺に、恋をしてみたらいい」なんて信じられない発言をされた後、彼は、そのままの流れで私の次作について「新しい一面を見せるという意味でも、ハッピーエンドなラブストーリーを書くのはどうかな」と提案した。
彼にハッピーエンドを書くことを提案されるのは、これで二度目。二度目の提案も、私は、彼の意見に素直に首を縦には触れなかった。それは、単に彼の意見を聞きたくないという意味もあるけれど、ハッピーエンドなんて、ここ数年書いていない私だ。
もう決して若くはない三十路の女。しかも、恋愛経験もここ数年ない。そんな私のような女にハッピーエンドな恋愛小説なんて書けるわけがない。
女性向けのハッピーエンドといえば、定番のオフィスラブ。それから、甘めのロマンス。ファンタジー。
「はぁ」
どれも起承転結が想像できなくて、私は大きくため息をこぼした。
確かに、女性向けラブストーリーはハッピーエンドが一番需要がある。バッドエンドは少し後味が悪く、暗い話になりやすい。それに、悲しい結末を読み終えた読者が物語の中に置いてきぼりになることもある為、夢のあるラブロマンスやファンタジー、オフィスラブを売り出したい会社としての意向も分かる。
果たして、私は物語の結末をハッピーエンドにすることは出来るのだろうか。いや、出来るかじゃなく、するしかないのか。
どうしよう、どうしよう、と考えながら家路を歩く。家に着いてからもパソコンと向き合い、私は次にどんな物語を創ろうかと悩み続けた。