難あり編集者と極上に甘い結末
しかし、その安心も束の間。
「まず、二頁の四行目。〝柔かな笑顔をこちらへ向けた〟の〝柔らか〟の部分の送り仮名ね。これは、校閲してもらう時に絶対引っかかるから先に直して。それから、ここ。ここも漢字間違い。それから……」
「ちょ、ちょっと待ってください!直すので、ちょっとだけ時間をください」
完全に安心しきっていた私に向けて、作品の修正箇所を次々指摘し始めた岩崎さん。私は、そんな彼の止まりそうもない口を止めると、必死でキーボードを叩き始めた。
「はい。次は、ここ」
「はい」
「ここはさ、もっと読者側に情景が浮かびやすいように、もう一言二言付け足してみるのはどう?」
「なるほど……」
デスクの前に腰掛け、キーボードの上で指先を滑らせ続ける。そんな私の背後から、時々パソコンのモニターを指差しながら指摘をする岩崎さん。
私は、たった今、たったの一度読んだだけのこの作品に対して本当に真剣に自分の考えと指摘をくれる彼を少しだけ見直した。
最初は、的を得ていることを直球に、オブラートに包むことなく伝えてくる彼に苦手意識しかなかったが、これは、彼が担当者として真剣に私の作品と向き合ってくれている証拠だ。