難あり編集者と極上に甘い結末
「沼川さんって、素直だよね」
「え?」
口角を下げないまま放った彼の一言に、私は目を丸くして驚いた。
〝沼川さんって、素直だよね〟と彼は言ったけれど、私は今まで〝不器用だね〟とか〝感情が分かりにくい〟と言われたことは多々あったが、素直だと言われたことは恐らくたったの一度もない。
どうして彼は、こんな私を素直だと思ったのか。それを問おうか迷っていると、彼の方が先に口を開いた。
「いやあ、面白い」
「何がですか」
「今、〝自分のどこが素直なんだ〟って思ってたでしょ?」
彼の一言に、言葉が詰まる。
実際、彼の言ったとおり、自分のどこが素直なのだろうと考えていた。だけど、正直に首を縦に振るのは、彼に負けるみたいで何だか癪だった。
首を縦に振ることはせず、ゆっくり、彼と合っていた目線を外した。すると彼は「図星だ」と言っておかしそうに笑う。
「はは、本当分かりやすい。顔に書いてあるよ〝図星です〟って」
くすくす、と肩を揺らして笑っている岩崎さん。私は、なんだかバカにされているような気がして、未だ笑っている彼を睨みつけるようにして見た。
「あの、そうやって馬鹿にするのやめてください。怒りますよ」
「はは、ごめんごめん。あまりにも分かりやすく感情が出てるから、つい面白くて」
仕事再開しますか、と彼がシャツの袖を捲る。私がむすっとした表情のままパソコンに向かい合うと、また私たちは校正作業を始めた。