難あり編集者と極上に甘い結末
ごく、ごく、と音を立てながら彼の首筋が動く。ビールがすれすれまで入っていたはずのグラスは、気づけば空っぽだった。
美味しそうに飲む人だな、なんて呑気に考えていると、彼がきょとんとした顔でこちらを見た。
「君は呑まないの?」
ビール瓶と私を交互に見る彼。私は、小さく頷き口を開く。
「三年くらい前から禁酒してるので」
「禁酒?」
「はい」
「三年って、随分と長い間控えてるんだね。お酒」
「はい」
「どうして?」
彼が、少し首を右に傾ける。数秒前に素っ気なく返した返事たちは、〝これ以上踏み込まないで〟という意を込めたつもりだったが、どうも彼は、その真意を読み取るつもりも、引き下がるつもりもないらしい。
「前の彼氏と別れた原因になったので」
別に勿体ぶることでもないかと思い、素直にそう答える。
三年前、この我が家で目にしてしまった浮気現場。それから、彼の放った言葉。彼の言動は信じられなかったが、今思えば、お酒の入った状態で告白をした私にも少なからず非はあったと思う。
「ふーん、そうなんだ。それなら、遠慮なく俺だけいただくよ」
「どうぞ」
自分で聞いておいて、然程興味のなさそうな返事。考えていることの読めない彼の思考を探ることはとうに諦めている私は、素っ気なく返事をすると立ち上がりパソコンの前の椅子に腰かけた。