難あり編集者と極上に甘い結末
「あ、もう再開するの? 君、随分と仕事熱心だよね」
ビールの入ったグラスを片手に、岩崎さんがソファーから立ち上がった。そのまま私の横に立つと、デスクにグラスを置き、モニターを覗き込んだ。
「あ、ここ。改行して」
モニターを見るなりすぐに指摘をされ、私は慌てて指定された文の手前に改行を入れた。
それから、二つ程指摘部分を修正し終えると、岩崎さんが唸るように「うーん」と声を出す。
「誤字云々もそうだけど、それより、俺が伸ばしたいのは君の表現力なんだよね」
「はい。前にも言ってましたね」
「そう。気になる部分はたくさんあるんだけどさ」
ちょっとページ戻して、と付け足した彼。私は、マウスのスクロールボタンを上方向に回し、ページを一ページ戻す。
「例えば、ここ。ほら、〝彼とのキスは、甘酸っぱい恋の味がした〟って表現は、あまりにもありきたりすぎる」
ページの真ん中あたりを指差した彼は、私にそう指摘した。
「そうですかね」
不満気に首を傾げる。すると、彼は私の目の前で不敵な笑みを浮かべる。
「本当にそんな味がするか、確かめてみる? そうすれば君の創り上げる作品は、もっと良くなると俺は思うんだけど」