難あり編集者と極上に甘い結末
「どうしたらいいって……沼川さんは、どうしたいんですか」
「どうしたいも何も、私はただ仕事をしたいだけです。それなのに……もう、彼と普通に仕事ができる気がしないです」
溜息を一つこぼした私は、目の前にあるホットココアを喉に流し込んだ。
「でも、できなくてもするしかないじゃないですか。仕事」
「そうなんですよね……昨日一昨日は、幸運にもバイトのシフトがフルタイムで入っていたので、会わずに済んだんですけど、ずっと避け続ける訳にもいかないですしね」
「はい。でも、それにしても岩崎さんは何考えてるんでしょうね」
知代さんが、眉間にシワを寄せる。
岩崎さんが、何を考えてあんなことをしたのか。それは、私には分かっていた。彼には、考えなんてない。キスをした理由は、ただ、〝私の作品を良くするため〟だ。
「あれは、彼にとってただのビジネスなんですよ。きっと」
「え、ビジネス?」
「はい。彼、私の作品を良くする為に、ってあんなことしたんです。多分、あれも仕事の一環だと思ってるんじゃないですかね」
彼が担当についた作家さんは伸びるんだと、前に知代さんが言っていた。その裏側には、こんな事実があったということなのだろう。
「まぁ、気にせずやっていくしかないですよね。キスひとつで騒ぎ立てる歳でもないですし」
知代さんの返事が返ってくる前にそう続けた私は「食べ進めますか」と、全く進んでいなかったケーキにフォークを刺した。
知代さんは、まだ眉間にシワを寄せて納得のいかないような表情を浮かべつつ、私と同じように目の前のチーズケーキを食べ進めた。