難あり編集者と極上に甘い結末
「すみません。では、お先に失礼します」
ぼうっとしていた私に、わざわざ上がりの時刻だと知らせてくれたオーナーに頭を下げる。「お疲れ様」という返事を背中に、私はバックルームに移動すると、着替えを済ませ外に出た。
「お疲れ」
「えっ」
自動ドアの外に一歩踏み出す。すると、左側から聞き覚えのある声が聞こえてきて視線を移した。そこには、煙草の吸い殻を灰皿に押し付け、こちらに向かい歩いてきている岩崎さんがいた。
「どうしているんですか」
「ちょっと偶然通りかかってさ。来ちゃ駄目だった?」
「駄目って訳じゃないですけど……」
偶然通りかかるって、この都会から外れた場所になんの用があって通りかかるというのか。
一人、そう疑問に思っていた私。そんな私の横で彼は「駄目じゃないなら良かった」と言って一歩先を歩き始める。
私の家の方向に向かって歩きはじめた彼を、私は少し早歩きで追いかける。そして、少し斜め後ろを歩きながら口を開いた。
「あんなこと言って私をこんなにも悩ませておいて、よく平気な顔して来れますね」
小さく、でも、彼に聞こえるように零す。すると、斜め前を歩く彼の顔がこちらを振り向いた。