難あり編集者と極上に甘い結末
「そんなに悩んだ?」
そう言った彼の口角は、何故か少しだけ上がっていた。
「……それなりには」
彼に悩まされたという事実が悔しくて、ぼそっと小さな声で返事をする。彼は、「ふうん」と軽く返事をするとまた前を向いて歩き始める。
「あの」
彼の背中に声をかける。その背中は、私の声を聞くとゆっくり振り返った。
「なに?」
「……昨日、岩崎さんの言いましたよね。私が〝新しい恋〟をしているんじゃないかって」
「うん。言ったね」
「その〝新しい恋〟の相手って……それは、岩崎さんの事を指してるんですか?」
彼は、私が〝新しい恋〟を誰にしているのかは言わなかった。だけど、私は真っ先に、今、目の前にいる岩崎さんのことを思い浮かべた。
「私が……岩崎さんの事を好きだと、言いたかったんですか?」
〝君、今、新しい恋してるんじゃない?〟と彼に聞かれた時、真っ先に岩崎さんのことが浮かんだ。その時点で、私の中で彼の存在は他とは確かに違っている。
本当は、薄々自分でも分かりはじめていた。だけど、認めてしまえば、もう後戻りはできない。
「そう。前にも言ったけど、君には俺のことを好きになってもらいたいからね」
いつもと変わらない表情。尚且つ、いつもと変わらないトーンでそう言う彼。
彼の言葉は、嬉しくなんかない。寧ろ、苦しくて、私の視界は段々とぼやけた。