難あり編集者と極上に甘い結末
パーティーは無事に終わり、私は岩崎さんと控え室にいた。
イスに座り、ぼうっとしていた私の隣に突然腰掛けてきた岩崎さんが私の顔を覗き込む。
「杏」
「な、何?」
突然呼ばれた本名の下の名前。私の声は、驚いて少し裏返ってしまった。
「やっぱり、何かあったよね。言ってみて」
優しい表情で私にそう言う彼は、彼がいなかった間に、私に何があったのかを知っているように感じた。
「沢木さんに、会ったの」
私もこの調子だ。未だに動揺しているし、うまく岩崎さんと話すこともできない。いつかはバレてしまうのなら、隠さず話してしまおう。
そう意を決して、口を開いた私。そんな私の言葉に、彼は表情をひとつも変えなかった。
「うん。さっき平田に聞いた」
「やっぱり、知ってたんだ」
「春川先生、沢木さんが担当持ってるのは知ってたから。平田が春川先生今日来てるって言ってて、ひょっとして様子がおかしいのはそのせいかなと思って」
いつもより、少し柔らかいトーンで話す岩崎さん。私の右手は、気付いたら隣に腰をかける岩崎さんの服の袖を握っていた。
「どうしたの。不安になっちゃった?」
岩崎さんが笑って私に問いかける。私は、その問いに首を横に振った。
「なに、それじゃあ、気持ちが揺らいじゃった?」
次に発したこの問いには、私は力強く、大きく首を横に振る。
気持ちが揺らいだ、なんてことは全くない。私が好きなのは、今、目の前にいる彼だ。だけど、ただ、どうしようもなく情け無いくらいに動揺している。