難あり編集者と極上に甘い結末
「岩崎さん」
「何?」
「……実は、この間。あのパーティーの帰り、沢木さんと少し話をしたんです」
「うん」
ごくり、と唾を飲む私の前で、岩崎さんは黙って私の次の言葉を待ってくれている。
「謝りたいことと伝えたいことがあるから、話がしたいって言われて……ずっと悩んでたんですけど、気持ちに踏ん切りを付ける為にも、明日、会ってこようと思います」
私はもう、拓未に会いに行くことは決めていた。ひょっとしたら、彼に〝話がしたい〟と言われた瞬間から決まっていたのかもしれない。だから、彼に判断は委ねなかった。
三年が経っても未だに残っている古傷。きっと、ずっと、このままで終われるはずがない恋だったからこそ、私はこれを機に、本当に恋を終わらせなければいけない。そう思ったのだ。
だけど、彼は、私のこの言葉に一体どんな感情を抱くだろう。
私は岩崎さんと付き合い、恋人になった。それなのに、勝手に元彼と会うことを決めてしまった。
流石に、呆れただろうか。こんなやつとどうして付き合ったのかと、自分を哀れに思うだろうか。
そうは思わないにしても、いい気はしていないだろう。そう思うと、岩崎さんの表情を見るのは怖くて、私は視線を床に落としていた。すると。
「うん、分かった。行っておいで」
いつもと変わらないトーンで返事をした岩崎さん。私は、恐る恐る視線を彼に移す。彼は、意外にも優しい表情をしていた。
「ありがとう」
岩崎さんは、一度だけ頷いて笑う。
彼の表情を見ると、私はなんて馬鹿な心配をしていたのだろうと自分を恥ずかしく思った。