難あり編集者と極上に甘い結末

 真っ直ぐ、真剣に私に気持ちを伝えてくれる彼の左手薬指には、やっぱり光るものはない。

 そんな私の視線を感じたのか、拓未は左手薬指を右手で撫でた。

「杏子の事が忘れられなくて、結局、離婚した。本当、勝手だよな」

 ああ、本当にズルくて馬鹿な人。

「私が、拓未の元に戻るとも限らないのに?」

「そうだとしても、俺には杏子しかいないから」

 この人は、こんなにも真っ直ぐな人だったなんて、あの時の私は知らなかったのに。

「……もう、今更だよ」

 私達が恋をしあって居たのは、もう、昔のこと。


「私、今、付き合ってる人がいるの」

 私は、彼に鋭い棘でも刺すかのように言葉を発した。しかし、彼は然程驚かず、そうだろうな、というような表情をした。

「私は、その人と結婚したいと思ってる。だから、貴方の元に戻る事はない」

 私の言葉に、拓未が今までで一番切なそうな表情をして「そっか」と言い、笑う。


 そんな表情、しないでよ。なんて、させているのは紛れもなく私なんだけれど。だけど。


「大体、私のために離婚を決めるなんて、バカじゃないの。突然消えて、突然現れて、好き勝手言って。そんなのがまかり通ると本気で思わないでよね」


 でも、早く。

 一日も早く、私を綺麗な思い出にしないで、忘れて、私の歩く先には交わらない別の道で、幸せになってくれたならそれでいい────。




< 90 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop