難あり編集者と極上に甘い結末
真っ直ぐ、真剣に私に気持ちを伝えてくれる彼の左手薬指には、やっぱり光るものはない。
そんな私の視線を感じたのか、拓未は左手薬指を右手で撫でた。
「杏子の事が忘れられなくて、結局、離婚した。本当、勝手だよな」
ああ、本当にズルくて馬鹿な人。
「私が、拓未の元に戻るとも限らないのに?」
「そうだとしても、俺には杏子しかいないから」
この人は、こんなにも真っ直ぐな人だったなんて、あの時の私は知らなかったのに。
「……もう、今更だよ」
私達が恋をしあって居たのは、もう、昔のこと。
「私、今、付き合ってる人がいるの」
私は、彼に鋭い棘でも刺すかのように言葉を発した。しかし、彼は然程驚かず、そうだろうな、というような表情をした。
「私は、その人と結婚したいと思ってる。だから、貴方の元に戻る事はない」
私の言葉に、拓未が今までで一番切なそうな表情をして「そっか」と言い、笑う。
そんな表情、しないでよ。なんて、させているのは紛れもなく私なんだけれど。だけど。
「大体、私のために離婚を決めるなんて、バカじゃないの。突然消えて、突然現れて、好き勝手言って。そんなのがまかり通ると本気で思わないでよね」
でも、早く。
一日も早く、私を綺麗な思い出にしないで、忘れて、私の歩く先には交わらない別の道で、幸せになってくれたならそれでいい────。