難あり編集者と極上に甘い結末


 暗い夜道に灯る、住宅の明かりが数える程しかない午後11時過ぎ。私は、空に浮かぶ星を眺めながらゆっくり家路を歩いていた。

 居酒屋を出ると、拓未は「今日は、ありがとう。また、こうして話すことができて良かった」と言って切なそうに笑っていた。

 そんな彼は、私と同じように、もう二度と会う事は無いだろうと感じていたはず。だけど、私達はお互い別れを惜しむことはせず「また」と言って別々の道を歩き始めた。


「綺麗に、終わった」

 ひとり、ぼそっと呟く。

 初めは、悲しくて、辛くて、悔しくて、現実を受け止めるのに時間が掛かって。だけど、忘れなくちゃって必死になって忘れたフリをした。

 忘れたフリをしているうちに、本当に忘れた気になっていたけれど、思うような作品が書けなかなった事。それは、彼を忘れきれていないという何よりもの証拠だった。

 ずっと、心の奥に残っていた古傷としこりのようなもの。それが、今日、やっと取り除かれたような気がする。


 ああ、早く、岩崎さんに会いたい。

 なんて、柄でも無いことを思いながら口角を上げる。その、口角を上げたままの表情で瞼を下ろし、ふわふわとした気持ちのまま歩き続ける。すると。


「ご機嫌そうだね」

 たった今、会いたいと願った人の声が聞こえて来たような気がした。

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