難あり編集者と極上に甘い結末

 まさか、と思い目を開ける。見間違いかと思ったけれど、間違いなく私の歩く先には岩崎さんがいた。


「岩崎さん」

「帰り迎えに行くって連絡したんだけど」

「えっ、あ、本当だ」

 少しむすっとした表情を浮かべる岩崎さん。私は慌ててポケットからスマートフォンを取り出した。確かに、私のスマートフォンの画面には岩崎さんからのメッセージが通知されていた。

「ごめんなさい」

 視線を落として、小さく呟く。そんな私を見て岩崎さんはくすくすと笑うと「いいよ」と言って私の髪を撫でた。

「ほら、行くよ」

「あ、はい!」

 ここ最近、私が夜遅くに出かける事があれば、私を家に送るためだけに来てくれる彼は、本当に私のことを心配してくれてるんだな、と感じる。

 隣を歩きながら、彼の横顔を見上げる。彼は、いつもと変わらない表情のまま、私の右手を握った。


「岩崎さん」

「ん? なに?」

「何も、聞かないんですね」

「うん、まあね。男が、そういうことをあんまり気にして聞くのも、格好悪いでしょ」

 彼が、苦笑いに近いような笑みを浮かべた。私は、そんな彼を見てくすりと笑った後で口を開いた。

「別に、そうは思わないですよ。ただ、興味がないのかなと思いました」

「え? 杏に?」

 彼の問いに、首を縦に振る。

「まさか。むしろ、興味しかないけど。まあ、でも、興味があるとか無いとかそういうことじゃなくて」

 絶対、俺の方が良い男でしょ? と冗談っぽく彼は言って笑った。

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