難あり編集者と極上に甘い結末
極上に甘い結末



「どう?」

 ソファーに腰をかけ、A4サイズの用紙束の最後のページを見つめている彼に問いかける。彼は、用紙束から私に視線を移すと口を開いた。

「俺、こんなに恥ずかしい言葉言ってたっけ。って、一瞬思ったんだけど、言ってたね。確かに」

 彼は、恥ずかしい、と小さく呟くと用紙束をテーブルの上に置いた。

「言ってたよ。徹が担当になってから三年経ったけど、私、ちゃんと覚えてるんだから。ほら、このUSBにメモも取ってるし」

「いや、杏、ちょっと待って。そんなのメモしてたの? 困る困る。恥ずかしすぎるから」

 私が振り掲げたのは、書き溜めておいた小説や、そのネタが溜まったUSBメモリ。彼は、それを必死に取り上げようと試みるけれど、私は必死でUSBメモリを守り抜いた。

 彼は、心底恥ずかしそうな顔をした後で、溜息を一つ吐く。恥ずかしい気持ちは分かるけれど、ここには、徹と出会ってから今日まで。三年分の思い出と私の作家人生が詰まっているのだ。消去なんて、するものか。

「ああ、本当に怖い。どこで何を書き留められてるか分からないから、作家と付き合うなら気をつけたほうがいい、って平田に今度伝えておかないと」

「何よそれ。作家が要注意人物みたいに言わないでよ。大体、この要注意人物を選んだのは徹でしょ?」

 ふん、とそっぽを向いて立ち上がる。怒ったふりをして徹から離れると、彼も立ち上がり、背中から私を包み込むようにして抱きしめた。

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