佐倉小花の幽愛白書
保留
明日から春休みという3学期の最終日。学校の東棟3階にある理科準備室で私は目の前の女生徒に頭を下げる。
意識したわけでは無いが見事な90度、直角に腰を折り深々と生徒に頭を垂れる様は我ながら情けなく自分が30間近の教師である事を忘れてしまいそうであった。
「それはつまり、私からの告白を拒否すると言うことでよろしいのでしょうか?」
下げられたままの私の後頭部目掛けて彼女の冷たい言葉が吐き捨てられる。
自分より一回りも年下の少女の威圧的な態度に段々と胃が締め付けられていくのを感じた。
何故教師が生徒に向かって頭を下げるような事態になってしまったのか。
事の発端は約一ヶ月前、春休みに入る直前の放課後まで遡る。
それは理科準備室で器具の整理をしていた私が一休みしようと室内にあったフラスコでコーヒーを作り始めた時だ。
理科実験室と準備室を繋ぐドアがノックされ、私が返事を返すと一人の女生徒が扉を開けて入ってきた。
恐らく一度も毛染めをした事がないであろう腰まで伸びた美しい黒髪、スレンダーで高身長な体つき、やや釣り目気味でいつも無表情なその生徒の名は佐倉小花。来年には受験を控えた2年生だ。