佐倉小花の幽愛白書
翌日、教員用の下駄箱を開けるとピンク色の封筒に綴じられたラブレターが入れられていた。
内容を掻い摘んで説明すると先日の告白は本気なので私からの返事を待っているという催促の手紙であった。追伸には交際開始時期が佐倉の卒業後でも可能である事が書かれている。
朝一番から私の胃を締め付けてくれるとはなかなかやるじゃないか佐倉小花。
何が彼女をここまでさせているのかは解らないがこの熱の入りようは異常だ。
どうせ断っても先日のように何かと理由を付けては迫ってくるのであろう事は恋愛経験者でない私にだって容易に想像出来る。
ここは彼女の頭の熱が冷めるまで無視をするべきだという結論を出すまでそう長い時間は掛からなかった。
手紙を鞄の中にしまい、靴を履き変える。
佐倉が何を間違って私のような冴えないおっさんに惚れてしまったのかは知らないが私には全くその気が無い事を言葉でなく態度で見せ付ければ彼女も諦めてくれる事だろう。
その日から私と佐倉小花の戦いは始まった。
「先生、授業お疲れ様でした。器具の片付け手伝います」
「いえ、私一人で大丈夫ですから佐倉さんは教室に帰ってもらって大丈夫ですよ」
授業終わり、器具の片づけを手伝おうとした佐倉の申し出を私は冷たく断った。
まずはこうした彼女との接点となる時間を出来るだけ潰していこうと考えたからだ。
「先生……私の事を疲れさせまいと考えて下さっているのですね?」
しかし今の彼女の目には辛辣に当たる私の姿すら生徒を気遣う優しい先生に見えるようだった。恋は盲目とはよく言ったものである。