佐倉小花の幽愛白書
「失礼します。先生」
「あ、ああ。よく来たね佐倉さん」
突然の来客に思わず声が上擦った。
佐倉小花は成績優秀スポーツ万能という紛れもない優秀な生徒で面倒な頼まれ事も率先して引き受けてくれる真面目な性格から教師からの評判もすこぶる高いのだが私は正直彼女が少し苦手である。
理由は彼女がまったくと言っていいほど笑わないからだ。
年齢に似合わぬ大人びた雰囲気と端整な顔立ちはまさしく大和撫子と評するに相応しく、そんな佐倉小花の笑顔はさぞかし美しく咲き誇り周りの男子生徒の心を射止めていくのだろうと思っていたのだが、残念ながら私は今までの授業中や学校生活中に彼女が笑っているところをただの一度として見たことがない。
授業中に少し難しい問題を解くように指名しようと動じることなくあっさり回答し、同じ班の女子が悲鳴を上げる中で彼女だけは眉一つ動かさず解剖実験用の蛙の腹を掻っ捌いた。
何を考えているのか解らない彼女の顔と真っ直ぐな視線がどこか怖い。