佐倉小花の幽愛白書
私は出来るだけ内心の落胆を表情に出さないように務めながらコーヒーを熱されたフラスコからビーカーに移して彼女に手渡す。
「すまないね。ここティーカップ置いてなくて」
「構いません。いただきます」
例え新品であろうとビーカーに注がれたものを口に含むのは慣れるまで少し勇気がいるものなのだが佐倉小花はやはり眉一つ動かさずに熱々のコーヒーを一口啜った。
「おいしい。やはり先生の淹れられたコーヒーは美味しいです」
そう思うのならせめて少しだけでも顔の筋肉を動かし少しだけでも浮かれた声を出して欲しいものだ。
「ありがとう。まぁインスタントだがね」
とりあえず一刻も早く腹痛の原因たる彼女に退室してもらうべく私はさっさと本題に入らせることにした。
「それで、私に相談したい事とは? 学業や進路に関することであれば私よりも君の担任の先生と話したほうが良いのではないかな」
「進路に関する相談ではありませんので」
遠まわしに私の所ではなく担任の先生の所へ行ってくれないかなというニュアンスで放った私の台詞はわずか一言で一刀両断される。
しかし妙だ。
私と佐倉小花との接点と言えば毎週月、水、金曜に行われる科学と生物の授業で顔を合わせる事しか無い筈なのだがそんな関係の薄い私に聞いてもらいたい話とは一体どんなものなのか。