佐倉小花の幽愛白書

「生物に詳しい先生ならば、人に恋をするという事がどういうことか教えて頂けると思いまして」


 淡々と発言するその表情から冗談なのか本気なのかよく解らなかったが、恐らく本気なのであろう。


「いやいや、いくら生物を教えている教師だからって詳しいのは生態系や習性についてまでで人間の内面的な話は専門外だよ」


「存じております。もちろん冗談です」


 その一言に私はまた口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。


まさか佐倉小花に冗談を言える口があったとは驚きだ。全く笑えなかったが。


「わざわざそんな冗談を言う為にここへ?」


 そう口にした私は内心で安堵していた。


正直、今時の女子高生の恋愛相談に乗るよりも下らないジョークを聞くほうが幾分気が楽であったからだ。


「いえ、半分は本気です。私は恋をしてしまったのです」


 今しがた手に入れた私の落ち着きを返せ。


「先生、一目惚れについてどう思いますか?」


 これはまた奇妙で面倒くさそうな質問が飛んできたものだ。
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