佐倉小花の幽愛白書
「一目惚れですか」
「正確には相手のことをまだ詳しく知らないにも関わらず外見的特徴や端から見た雰囲気だけで勝手な理想像と恋心を抱いてしまうような女性をどう思いますか」
まるで一目惚れが悪であると断定しているような言い方であるがその語気の鋭さから今度は冗談などでは無いと確信できた。
「人間という生き物に限らずこの世界に生きる動物は異性の外見に惹かれるように出来ています。だから佐倉さんがよく知らない誰かに惹かれたとしてもそれは自然なことだと思いますよ」
恋愛経験が無いくせに何を真面目に語っているのだこの29歳独身教師は。
そんな自己嫌悪に内心悶えながら私は自分を落ち着かせるようにまたコーヒーを口に運んだ。
「それはつまり、先生は一目惚れするような女性でも嫌いにならないという事ですか?」
無表情を崩さずに佐倉小花は妙な言い回しの質問を再度投げかけて来る。
普段の授業を受ける彼女とはどこか違うような違和感を感じながら、それでも早くここから出て行ってもらう為に私は真摯に答えることにした。
「私に限らず世の男性で一目惚れをする女性に嫌悪感を抱くものはそう多くはいないと思いますよ」
「世の男性の事はどうでもいいですが先生もそんな女性を別段嫌いになったりする事はないということですね」
視線を外さず真っ直ぐ見つめてくる佐倉との2人きりのこの空間に私の胃が限界に近づいているのを感じる。
というか彼女は何故そんなに私の意見に拘るのだろう。