過去消しゴム
「お嬢さん、ちょっとこちらへいらっしゃい?」


老婦人は微笑みながら、そっと手招きをした。


「…。」


正直、不安な気持ちもあったが


私は言われた通りに老婦人のもとへと歩み寄った。


「あの、実は…」


何かを探していた訳じゃないんです。


そう告げようとすると、老婦人は私の目を見て


「…ふむ。なるほど。」


と、何かを悟った風な口振りをした。


「えっ?あの、何が"なるほど"なんですか?」


訳が分からずにいる私を横目に


老婦人は自分の服のポケットの中を探り始めた。
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