離婚前提策略婚。【改訂版】

華乃と崇憲と龍成

ひとしきり泣いた後、携帯の着信ではっとする。

相手はあいつだった。時間を見ると九時を過ぎていた。

深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「…はい」

『華乃ちゃん?君、時計の見方がわからないのかな?』

「今行く」

『ったく、どこにいるんだよ』

「そんなかかんないから、ちょっと待ってて」

『風邪か?』

「え、なんで?」

『鼻声だぞ』

「…急ぐから、じゃあね」


電話を切り鏡を見る。

目も赤いし泣いたの気づかれるかな。映画でも見てたって言おう。


ふんっと鼻をかみハンドルを握る。


ここから切り替えないと!落ちてなんていられない。むしろ上がったんだから!最低な女よりは格が上がったはず!


──あれ?そういえば、あいつそんな怒ってなかったな。遅れるなよとか言ってたから、もっと怒りそうな気がしたけど…。


まさかわたしの鼻声で、本当に風邪かと思って心配でもしてたり……するわけないか。

こんな時はいくら嫌いな男でも一人でいるよりはマシよ。新婚ごっこ、楽しんでやろうじゃない。


なんて強気なまま会社の前に着くとあいつは電話をしながら待っていた。すぐにわたしに気づき、電話を切って車に乗り込んでくる。
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