離婚前提策略婚。【改訂版】

「た、頼むって…。でも悩んでる時間はないわね」


一つ深呼吸をして、麻友は机の上にある電話の受話器を手に取り、ボタンを押した。


「─代表補佐の神田です。桜庭部長はいらっしゃる？社長室に呼んでちょうだい。ええ、今すぐ」


受話器を下ろし、また深呼吸をしてソファーに座る。


数分後、ドアをノックする音が。


「奥様、流通部の桜庭部長がお越しです」

「通して」


ガチャッとドアが開くと、秘書が誘導し桜庭が一礼をする。


「失礼します」

「どうぞ座って。あなたは戻っていいわ」

「はい、失礼します」


桜庭がソファーに座ると同時に秘書が出て行き、ドアが閉まる。


「奥様、お久しぶりでございます」

「ええ、元気そうでなによりだわ」

「奥様もお元気そうで」

「そうね。あなたのご息女もお元気かしら」

「娘…ですか？お陰様で元気でございます」

「以前パーティーでお会いしたきりだったから気になってね」

「そうでしたか。パーティーだと連れて行ったのは長女ですね」

「あら、他にもご兄弟が？」

「ええ、三姉妹なんです」

「そうだったの。それでその方のお名前は？」

「長女は莉乃(りの)と申します」