離婚前提策略婚。【改訂版】
ここまで言われたら無碍にするのは失礼だよな。据え膳食わぬは男の恥だ。

周りに誰もいない。この場所は絶好の死角。最高のシチュエーション。


──いただきます。


……。


「……」

「ごめん、真奈美ちゃん。やっぱ無理だわ」


大きな目を見開き、俺を見つめながら一筋の涙を流す真奈美ちゃん。


当たり前か。


俺は真奈美ちゃんの顔の前に手を出し、キスをされるのを防いでいた。

そのせいで彼女は俺の手のひらにキスをする形になってしまっていた。


涙は止まらず溢れていく。

手を離すと、俺の手も涙で濡れていた。


でも悪いなとは思っても、心は痛まない。というか俺の立場が悪くなるとか考えないあたり、少しおかしくねぇか?


「やっぱ立場上無理だよ。それにこんな可愛い子に愛人紛いのことをさせたくない」


どこにマスコミがいるかわかんねぇし、今はこれが正解だろ。

俺にもちゃんと理性ってのがあったのか。


……違う。理性とはちょっと違う。


あの瞬間、なぜか華乃の顔が頭にチラついた。

それがなかったら、あのまま俺は拒むことなく真奈美ちゃんとキスをしていた。


──なんであそこで華乃が出てきたんだよ。なんで華乃を悲しませたくないと思ったんだよ。
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