離婚前提策略婚。【改訂版】
…しらねぇ。

親父が優しかった思い出なんて記憶にない。それどころか親父との思い出すら限りなく少ない。


「じゃ、行ってくるわ」

「粗相のないようにね」

「犬か俺は」


社長室を出てエレベーターに乗る。

ため息をつきながら上層部の階で降り、橘常務の部屋に向かおうとした時──。


「──!」

「あ、真奈美ちゃん」


ある部屋から出てきた真奈美ちゃんと鉢合わせる。


「りゅ、龍成さん…!」


もの凄い驚きようの真奈美ちゃん。

そこまで驚くか?気まずいならわかる気もするが。


「真奈美ちゃん、上層部に用があったの?」

「あ、えと、ちょっと…。で、でも、もう終わりました!お疲れ様です!」


真奈美ちゃんは何か都合が悪そうに急いで立ち去ろうとする。


「……」


一般社員は上層部になんて用はない。

見るからに怪しいけれど、俺には関係ない。


そう思い真奈美ちゃんが出てきた部屋に目を向けると、そこには『専務室』の文字。


その文字を確認した瞬間、俺は真奈美ちゃんの後を追っていた。
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