離婚前提策略婚。【改訂版】
本当は抱きしめたかった。

その華奢な後ろ姿を、強く強く、壊れるくらいきつく抱きしめられたなら。

衝動を抑える為に、無駄に長く華乃の髪をシャワーで流す。


濡れた髪すら愛しく思えてしまう。

そんなことが初めての俺は、自分の気持ちに素直になると苦しいところが出てくるということに今さら気づいた。

『切ない』なんて感情、俺にもあったんだな。


「あとはいいよ。ありがとね」

「ほんとに?全部洗ってあげてもいいんだよ?」

「あんたってどこまでもチャラいね」

「は?どこがだよ」

「全部」

「意味わかんね」

「じゃあねー」

「…のぼせるなよ。なんかあったら大声出せよ」

「はいはい旦那様」


促されるように浴室を出て、その場にしゃがみ込む。

無意識のうちに出ていたため息。


なんでこんな時に、なんでこんなヤツに、なんでこんなに本気になってんだよ。

正真正銘の馬鹿だろ。

あいつを好きになる意味がわかんねぇ。


でも否定しようとすればするほど、自分の気持ちの大きさを実感させられる。
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