離婚前提策略婚。【改訂版】
「…おやすみ」


ドアが閉まる直前に小さく聞こえた龍成の声が、わたしを更に切なくさせる。


早く、早くマンションを出なきゃ。


そう思いエレベーターに乗るも、龍成がいないとやっぱり駄目だった。

しゃがみこみ、一階に着くまでギュッと目をつぶる。

また色々な思いが混じった涙が頬を伝う。震えが止まらない。


ようやく到着し、ふらつきながらエレベーターから降りる。何も考えないように駐車場に行き車を出す。


本当は車の中で声を出して泣いてしまいたかった。でも龍成との思い出がつまったこのマンションから早く離れたかった。


運転をしながら、涙で目が滲まないように何度も擦る。

やっとの思いで実家に着き、車から降りた。


ふと顔を上げると、ちょうど空に月が浮かんで見えた。


怖いほど綺麗な月。


心が奪われそうになるその夜空に、胸が震え涙が止まらなかった。
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