嘘に焙り焙られる




直矢は親友というよりも同士のような関係といった方が、正しいのかも知れない。

お互い所謂、孤児院育ち。幼少期からの顔なじみ。

しかし、過去の境遇が似ていたことが何でも話せる関係性を生んだ。

それは、二人とも肉親をあまり知らないという大きな点だった。

そもそも芸能の道のモデル業を勧めてくれたのも直矢である。

今の事務所を紹介してくれた直矢には、端から頭が上がらない。



先にモデル業を始めたのは、直矢だ。

直矢は、高校生の頃運よくスカウトされた。

最終的な判断は、苦学生にしては、割合いい収入が得られるというのが動機だったらしい。

そんな直矢と気さくに話せる間柄というものは、知らないうちに恨みを買ってしまうのも事実で、私は幸薄系素朴美人と学生時代揶揄され孤立化していた。

「それは皆のやっかみで桐子が持ってる武器だよ。」と肯定してくれたのも直矢だっけ。

今や直矢は、俳優業でそれなりの成果を修め、現在巷で話題の俳優に至る。

長風呂で振り返ることは、自問自答ばかりだ。

入浴後の浴槽の栓を抜き、水流を眺める。

知らず知らず私も同じような道の直矢の背中を追っている。
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