嘘に焙り焙られる
明くる朝。
普段通り、直矢は迎えに来た。
「睡眠不足?」「なわけない」と敷地内のゴミ置き場に袋を捨て、世間話をしながら事務所の車を待つ。
ほどなくロビーの向こうに車が見え、その日は、直矢のマネージャー本居さんの運転にて、現場へ向かった。
先に音源は貰っていたけれど、別れのテーマ曲が仕事に来るなんて、皮肉だ。
この前は、二人で突っ走って、とことん走るだけの「人生とは走ること」のような若者へ教育啓発ものの撮影だった。
でも、意識的に田所さんは仕事をもたらす時が多々ある。
途中そんな田所さんとコンクリートジャングルの路地で無事合流。
「この送迎もあと何回かしらね。」なんて当然の如く、直矢のマネージャーの本居さんも事情を全て知っている。
「お世話になります。本居さん欲しいものあったら言ってね。」
「試供品でしょ。知ってるわよ。ありがと。」凛と返す本居さんは、憧れる働く女性だ。
一切深刻な会話にならず、和気藹々と現場へと向かった。
この日常は、日常ではなくなるんだなと思うと、何処か儚い気がした。