嘘に焙り焙られる



腕を思いきり振りほどき、涙をためながら直矢の顔をみると、すでに涙が一筋流れていた。

プロは流石だ。

と思う暇もなく、背を向け歩き出そうとする瞬間、右手を思いきり掴まれた。

頭が真っ白になり、思わず目を見開いてしまった。

目一杯にためた涙が瞬時に引っ込む。

立ち止まる予定は、プランになかった。

どうしてか、躊躇し立ち止まってしまった。

恭兵が図らずもフラッシュバックしたのだ。






「この手を振りほどくことが仕事よ」と己れを鼓舞する。

時間にしては1秒にも満たないだろう。

しかし、指を誘うように弄る直矢の握力に思うよう勝てない。

再び涙を滲ませ参った顔で振り返ると名残惜しそうに、かつ簡単にその手は離れる。

意を決したよう長い髪をなびかせ、ヒールの音を高らかに鳴らし歩く。

ボロボロと涙を零しながら、決して振り返らず直矢を置き去りにした。


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