嘘に焙り焙られる
残すは、ショッピングモールとハウススタジオの撮影だ。

どちらの撮影も台詞はなく、イメージカットだけを永遠に欲しいそうだ。

深刻な別れのシーンからは打って変わって、幸せな日々を演じることとなる。

早朝の休憩時間もそれ相応に、おぼろげな光が目に眩しく物音ひとつしないショッピングモールにて、回想シーンの撮影は始まる。

監督からは、「自然体に楽しんでください」とまで、言われてしまった。

人目を気にしなくていい世界なんて、虚構だからこその特権だ。

一緒に住んでいるだけでも十分おかしいのだけれども、デートらしいデートは、直矢とはしたことがない。

もしもの世界なんてあり得ないけれども、淡い幻想を作品に置いて行こう。

周囲からはどこから見ても、幸せに満ち溢れたカップルにしか見えないだろう。

あるがままに成りきり、スタッフへ多幸感という見えない花を満開に咲かせ無難に撮影は過ぎる。



カラフルなラグマットの上で抱えるように直矢が後ろから抱きしめる。

ハウススタジオに移り朗らかなスキンシップの撮影中だ。
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