嘘に焙り焙られる
勿論マイクがないため、ヒソヒソと雑談は可能である。
「シャンプーかオイル変えたか?」耳元から囁かれてぎょっとした。
「よくわかったね。ベルガモットのオイルに変えてみた」と平凡に返す。
「へー香りがいい。90度くらい体反転できる?」
「え、でもカメラの角度とか」
「大丈夫、カメラからは座っていちゃいちゃしてるようにしか見えないって」
まあそれもそうかと、スタッフの位置を確認し妙な納得を得て、直矢の方へ体をよじる。
次に手首を持たれ、直矢の鼻元に腕が寄せられていく。
至近距離で勿論、伸ばした腕に直矢の吐息がかかる。
その上、堂々と匂いを嗅がれている。
それはそれで恥ずかしい。別問題だ。
不自然にならないよう、その手を直矢の肩の方へかけようとした。
「桐子は、力抜いてリラックスしていて。」
それを直矢は制するように、腕から流れるよう撫でながら指先を握り、手の甲を擦る。
一方的に撫でられた状態で映像は造られていく。
早くカットの言葉を掛けてほしい。