嘘に焙り焙られる
田所さんは、察したように呟く。
「今日の、直矢。演技に本気だったしなあ。」
「演技に本気?」
「直矢がなぜ俳優として成功したことに気付いていないのか。
今迄見たことがない女優の形相を引き出すことができるから、あいつは、今や引っ張りだこなんだ。
さっきの演技は鬼気迫るものがあった。
その上、今日の桐子が一番可愛い。
世間に映像を出したくないほどの、いい表情。
正直、マネージャーとして天国と地獄というか。
ファンあと5億人増えるぞ。」と田所さんは、含み笑いを見せ冗談半分に続きを話す。
「直矢も今桐子が思っているだろう悔しさや、敗北感に何回もさらされて、這いつくばってあの技術を身に着けたと思う。
場数の問題でもある。」
「いままで雑誌の撮影や、ペアの仕事ではそんなこと…」
「だから今日の桐子は直矢を本気にさせる何かがあったんだ。
直矢を演技で本気にさせたことを堂々と誇っていい。
あいつは仕事の仮面が二枚ある。
一枚目は、いい子ちゃん優等生俳優の直矢。
その下には、演技の延長線上に裏打ちされた説得力を醸し出す直矢だ。
二枚目が拝めたといことは、演技力を認められたと言ってもいい。
いい加減、自信持っていいぞ。」