嘘に焙り焙られる
「マスター、ありがとう、ごちそうさまでした。」
「またお越しくださいまし」
「次まで時間があくかもしれないけど、ごめんね。」と手を合わせて立ち去る。
「いえいえ、お気をつけて」
目深にニット帽をかぶり、店を出ると黒縁メガネ姿の直矢がいた。
「マスターに呼ばれて来てみたら、これか」
機転の利くマスターに計られた構図だ。
というか、時間空いてたの?ほんとに?
怪訝な表情で「撮影は?」と尋ねると「バラしになって」なんて言うものだから、(仮)という愚痴を聴く。
夕日が沈みかける頃合いのとき、二人の影が家路へと伸びていく。
「マスターは私たちが付き合ってると信じて疑っていないからね…最低限別れそうなこと伝えておかないとダメなのかな?」
「んーどうだろう。全部見透かされてたらすでにアウトだろ。」
「それもそうだけど、直矢の行きつけのお店だから、元々安心して買ってたんだけどなあ」
「マスターは俺が何とか話つけとく。そういえば話があ…」
直矢が急に押し黙り前を見据え足早になる。
「直矢?」と見上げると直矢は口元に指を立てるジェスチャー。
「シッ。つけられている。」
小声に冷ややかな目線とともに直矢は呟いた。