嘘に焙り焙られる
自宅マンションまでは、300mほどの距離だ。

記者がいるであろう不審な黒い車が、一定の距離をとりながらのろのろと進む様子が窺い知れる。

一刻も早く振り切らなければ。

すれ違う自転車を漕ぐ青年が、日常を過ごす1ページの隅にいる。

一般人を装っている人かもしれない。


急に不安にかられ、簡素な路地の周囲に対し疑心暗鬼になる。

「振り返らなくていい。こっち」

直矢に肩をスッと抱かれ入り組んだ住宅の隙間を縫うように歩く。

張りつめた緊張感の中、直矢は至って落ち着いている。

車が入れない路地を冷静沈着に選び、煙に巻く。

お稲荷さんの社殿を横目に地下駐車場へ続く、裏道の路地からマンションへ帰る。

隙がない作戦だと思う。

無事エントランスにたどり着き、不審車両の情報を管理人へ告げ管理人室の横を通り過ぎる。

エレベーターはあえて使わず、あまり住民が使わない階段に影が伸びる。

先ほどの車はシックな壁紙の窓越しからは見えない。

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