嘘に焙り焙られる
「あの記者、撒けたかな?」

自宅につきカーテンの隙間から正面の道路を眺めるも車はいない。

「土地勘なさそうな不慣れな記者に見えたし、大丈夫だろ。ん、ちょっと待って」と携帯電話に手をかざし直矢は、電話をかけ始めた。

はいはい、静かにしてますよっと。

私も連絡せねばと田所さんに一報を入れる。

「桐子と直矢は別れたらしい噂を事務所のマネージャー連中に流し始めておいたから、決定的な写真を撮りたい耳の早い記者も湧くだろう。気を付けて」と叱られもせず田所さんからは全てを知っていそうな素っ気ない業務連絡の返信だった。

田所さんは、勝手なところがある。

その話先に教えて貰いたかったなぁ。

着々と増えた引っ越し用の段ボールを端に寄せ、買ったばかりのコーヒー豆を補充させる。

「ずいぶん片付いたね」なんて、キッチンに近付く直矢を視界に入れつつ。

「ここ数日でだいたいね。あと残ってるのは直矢の服くらいだよ。必要最低限のもので生活できるくらいには片付いたから」

緊張感のない会話を返す。

「桐子ー、手伝ってくれるか?」といつもと変わらなく過ごす直矢がクローゼットから呼ぶ。

「はーい。」と急ぎ気味に部屋を横断しクローゼットに入るとほとんど片付いた後だった。

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